1.混合性結合組織病の特徴-血管の障害、線維化、炎症-
「混合性結合組織病の特徴(1):血管の障害-初めはレイノー現象から-」
混合性結合組織病で、初めに起こってくる症状として多いのは、強皮症と同じく、「レイノー現象」です。レイノー現象は、「手の指の血液の流れが一過性に悪くなる」症状です。冷たい空気や物に触れた時や、精神的に緊張した時に起こります。
手の指の先端が、①まずはろうそくのように真っ白になり(血管が収縮して血液が流れなくなります)、②そのあと紫色になり(酸素を含まない暗い色の血液が血管の中に滞った状態です)、③最後に、濃い赤色になる(収縮していた血管がふたたび開いた時に、一時的に流れる血液の量が増加します)という、三段階の色の変化を見せる症状です。
これほど明らかな三段階の変化でないこともありますが、最初の、ろうそくのように真っ白となることは共通です。レイノー現象のない患者さんもいらっしゃいますが、混合性組織病の患者さんの99%でいつかはレイノー現象がみられるという報告もあります。血管の障害が混合性結合組織病の重要な特徴といえるでしょう。
治療のことに触れるのは少し気が早いかもしれませんが、レイノー現象があったときはどのように対処するのでしょうか。まずは、レイノー現象が起こるような血流が不良の状態のために、どれだけ組織がダメージを受けているかを評価することから始まります。血流が維持できないと、酸素や栄養を受け取れませんので組織は壊れていきます。その結果、手の指に潰瘍(皮膚が切れて、くぼみができること)や壊疽(皮膚とその下の組織が壊れて黒くなること)ができます。このようなときに、血流を改善する治療を行います。
ガイドラインの指標では、上記のようになっていますが、実際の診療では、潰瘍ができていなくても、生活上の不便(寒冷時の痛みやこわばり、脱力など)があれば、血流改善の治療を行います。
血流改善の治療は以下の3つに分かれます。
①基礎療法
禁煙、食事ではたんぱく質を十分にとる、保温(加温は穏やかに、お湯や蒸しタオルで)
②理学療法(リハビリ)
手足の屈伸運動(運動は血流を改善し、むくみをとってくれます)
③薬物療法
レイノー現象をなくすことが薬物療法の目的ではありません。血流が悪いことによって起こる潰瘍や痛みなどの症状を軽減、消失させることが目的です。
血管拡張剤、抗血小板剤、抗凝固薬などを単独、あるいは組み合わせて使います。十分な量を使うことが必要です。基本的には内服の薬ですが、大きな潰瘍や壊疽ができているときは、注射・点滴での薬を使うのが一般的です。
薬剤としては、商品名でいいますと、プロサイリン・ドルナー、オパルモン・プロレナール、リプル・パルクス・プロスタンディン(これらは注射剤で重症の時に使います)、プロスタンディン軟膏、アンプラーグ(頭痛や動悸が少ない)、プレタール、トラクリア(有効だが効果)、ユベラ(軽症の時)などが代表的です。血管を拡げるこれらの薬を使うときは、頭痛・動悸・立ちくらみに注意する必要があります。抗凝固薬として使われるのは、ワーファリンが代表的です。
潰瘍がある程度進行しますと、そこに病原菌の感染を起こすことがあります。病原菌が付いているところの傷は治りませんので、その場合は、内服や注射の抗生剤(ゲンタシン軟膏などの塗り薬では不十分)を使う必要があります。
「混合性結合組織病の特徴(2):線維化-皮膚の硬化は強皮症よりも軽く、範囲も限定的-」
レイノー現象の次に起こる症状は何でしょうか。血流が悪いと、当然のこととして組織は酸素不足になります。酸素不足になると、線維芽細胞という細胞の活動が活発になると考えられています。線維芽細胞は、名前通りに線維成分(コラーゲン)を合成するだけでなく、炎症(痛み、腫れ、熱、発赤)を誘発する作用があります。血流に関わる、血管の平滑筋細胞、内皮細胞、血小板などの細胞も線維化・炎症を促すと考えられています。
この結果として、血流が悪い手足の先端のほうから線維化(皮膚の硬化)が起こってきます。炎症も伴いますので、症状としては、手指のこわばり、痛み、腫れ、皮膚の硬化ということになります。
これらの一連の反応を軽減・防止するためにも、十分な血流を確保することが大事であることがおわかりいただけるかと思います。
強皮症の場合は、手指や足指を越えて、手のひらや足の甲、前腕、下腿にまで皮膚の硬化が拡がっていくことが多いのですが、混合性結合組織病の場合はそこまで線維化(皮膚の硬化)が拡がってはいきません。指だけにとどまります。手指、足指だけでなく、内臓においても、混合性結合組織病は、強皮症よりも線維化の程度が少ない病気です。
我が国からのJpn J Rheumatol 1997;7:279の報告によりますと、84%の患者さんに皮膚の硬化(線維化)が認められますが、強皮症よりも程度の軽いものです。したがいまして、皮膚病変が治療の対象になることはほとんどありません。血流障害による皮膚潰瘍・壊疽の治療については、先ほどお話しさせていただきました。
「混合性結合組織病の特徴(3):炎症-強皮症ではあまりない、発熱がよくみられる-」
混合性組織病では、発熱(一過性のこともあり、また継続することもあります)がよくみられます。たとえば、初期の段階では、微熱が続いて体がだるいだけで、その他の特徴的な症状がでないこともあります。熱にしても、37度代の微熱から、39度以上になるような高熱の場合もあります。発熱がある場合は、同時に、あるいは遅れて、以下のような症状がでることがありますので注意が必要です。
①関節の痛みや腫れ、②リンパ節の腫れ、③心膜炎(心臓を覆う膜に炎症が起こり、胸が痛む)、④胸膜炎(肺や胸の内側を覆う膜に炎症が起こり、胸や背中が痛む)、⑤筋炎(筋肉に炎症が起こり、痛みを感じたり、力が入らなくなる)、⑥腎炎(自覚症状としては出にくく、浮腫がでることも)、⑦中枢神経(脳)病変(頻度はわずかです。頭痛・抑うつ・不安・けいれんなど)
ここまでで、混合性結合組織病の特徴、(1)血管の障害、(2)線維化、(3)炎症、についてお話ししました。次は、診断の話に移っていきましょう。
4.混合性結合組織病の臓器病変
ここからは、いよいよ、それぞれの症状、臓器病変の説明に移っていきたいと思います。
4-1.「肺高血圧症:混合性結合組織病の予後に影響する臓器病変」
概要
これまでも繰り返しお示ししましたように、大事な病変です。まずは、全身と心臓と肺の血流の説明からさせていただこうと思います。
血液は全身から帰ってきて、右の心臓に入り、肺動脈を経由して、肺に送り込まれていきます。血液は、肺で酸素を受け取り、肺静脈を経由して、左の心臓に帰っていきます。左の心臓からは、今度は大動脈を経由して、全身へと送り出されていきます。
この一連の過程で、肺の血管の異常などのために圧力が増して、右の心臓から肺へ血液を十分に送り込めない状態が、「肺高血圧症」です。
肺高血圧症になりますと、右の心臓に負担がかかり、右の心臓の機能低下(右心不全)になります。右心不全になると、息切れや足のむくみなどの症状がでてきます。また、肺の血管を血液が通過しにくくなりますから、肺で酸素を受け取った血液が減ってしまい、左の心臓から全身に送り出される血液の量が減り、全身の活動のために必要な酸素を供給できなくなってしまいます。このため、初期では、活動量の多い状態で息切れを感じるようになり、さらに進行すると、ちょっとした活動や、ついには安静時でも息切れを感じるようになってしまいます。
肺高血圧症の原因はいろいろあり、それによって治療のやり方も変わってくるのですが、混合性結合組織病の肺高血圧症の主な原因としては、血管の炎症によって血管の壁や内側の細胞が増え、血管の内腔が狭くなってしまうことがあげられます。炎症が認められることは、強皮症の場合には血管の炎症所見がほとんどみられないことと、対称的です。
「炎症」を抑え込む治療としては、ステロイド剤や免疫抑制剤が有効です。のちほど、説明します。
肺高血圧症への対応:診断
「自覚症状の出現に注意すること」と「定期的な検査」が望まれます。
肺高血圧の重症度は、NYHAの4つのクラスに分類されます。このうちで、クラス2の段階で治療を開始できれば、さらに悪化していくことは少ないことがわかっています。
ちなみに、クラス2とは「安静時は大丈夫だが、通常の活動(屋外の活動、坂や階段を昇ることなど)で呼吸困難、疲労、胸痛、失神あり」の状態です。これに対して、クラス3というのは「安静時は大丈夫だが、通常以下の活動(平地の歩行など)で呼吸困難、疲労、胸痛、失神あり」となります。注釈として入れましたように、階段を昇るときに、たとえば半年前よりも息切れが強くなってくるようでしたら、注意が必要ということになります。
このようなことをきっかけに、あるいは年1回程度の定期チェックとして、まずは、心臓超音波(心エコー)検査を行います。その結果、肺高血圧症が疑わしいということになったら、心臓カテーテル検査(肘や足の付け根から、カテーテルという合成樹脂のチューブを入れて、肺動脈の圧を測定します)を行い、肺高血圧症の診断を確定し、重症度を評価します。
肺高血圧症への対応:治療
混合性結合組織病の肺高血圧症の原因は、肺の血管の「炎症」であると先ほど申し上げました。そこで、炎症を抑え込むことが治療の中心となります。つまり、ステロイド剤(中等量以上、体重50㎏であればプレドニゾロン40㎎/日程度)や、免疫抑制剤(通常はエンドキサンの点滴)が治療の中心になります。
これに対して、「炎症」が少ない強皮症の肺高血圧症の場合は、狭くなった血管の内腔を拡げてあげる、血管拡張剤を使うことが治療の中心となります。もちろん、混合性結合組織症の肺高血圧症でも、血管拡張剤を使うことはあります。肺高血圧症に使う血管拡張剤は、レイノー現象や皮膚の潰瘍に使う血管拡張剤と同じものもありますが、特有のものもあります。その種類は、この10年くらいで驚くほど増えました。詳しくは、このホームページ内の「強皮症」のページの中の肺高血圧症の欄をご参照ください。
4-2.「間質性肺炎、肺線維症」
概要
間質性肺炎とは、肺の壁に当たる部分、血管や神経などのある「間質」に炎症が起こる肺炎です。気管から気管支、細気管支として分かれて、最終的な肺の空間部分となる、肺胞には、炎症があまり起こらないので、咳は結構出るのに痰が出ないのが特徴です。発熱をともなうこともあります。
これに対して、肺線維症とは、同じ肺の壁に炎症が起こるのですが、「炎症」の程度が軽く、「線維化」のほうが主体であることに違いがあります。「線維化」が主体であるので、間質性肺炎よりも病変の進行はゆっくりであることが一般です。
どちらの場合も、最終的には肺の壁が線維化し、血液との酸素の受け渡しができなくなっていきますので、酸素不足による息切れ、呼吸不全になっていきます。
間質性肺炎、肺線維症の診断
初期症状は、酸素不足になる病態ですので、肺高血圧症と同じように、労作時(動いた時の)息切れということになります。再び、階段を昇るときの息切れが強くなってきた場合に注意が必要です。
このような自覚症状があるときなどには、あるいは、定期チェックとして、肺の画像検査や呼吸機能検査を行います。画像検査としては、単純レントゲンとCTがありますが、やはりCT、とくにHRCT(高分解能CT)が有用です。現在進行中の間質性肺炎の場合は、HRCTで、すりガラスのような影として現れます。過去の炎症部位は、明確な白色あるいは、蜂の巣のような空洞として現れます。すりガラスのような影は肺の下のほうに多く、また外側の壁際に多いのが特徴です。
海外からの報告ですが、Ann Rheum Dis 2012;71:1966によると、混合性結合組織病では、52%の患者さんですりガラスのような影が認められるとされています。
肺の壁の状態は、呼吸機能検査でのDLcoという項目が低下するということでも評価できますが、「百聞は一見にしかず」であり、HRCTの有用性にはかないません。しかし、HRCTには、放射線の被曝という問題があります。技術の進歩で被曝量は減ってきてはいるのですが、無視はできません。
そのため、簡便な評価として、KL-6という血液検査があります。KL-6は肺胞に存在している細胞から放出される物質です。間質性肺炎のために肺の壁が壊れると、KL-6は肺胞から血管のほうへ漏れ出していきます。壁が壊れれば壊れるほど、漏れ出るKL-6の量は多くなるので、間質性肺炎が改善しているのか、悪化しているのかを評価することができます。
間質性肺炎、肺線維症の治療
現在進行中の病変であるかどうかで、治療するかどうかを決めます。完全に線維化されて固まってしまったところに対しては、残念ながら治療は無力です。
「炎症」の要素が強い時は、肺高血圧症と同じようにステロイド剤(中等量以上、体重50㎏であればプレドニゾロン40㎎/日程度)と、免疫抑制剤(エンドキサンが主です。保険適応外ではありますが、セルセプトが用いられる場合もあるようです)による治療になります。
「線維化」の要素が強い時は、「抗線維化薬」による治療が適当かもしれません。オフェブという抗線維化薬が、強皮症の肺線維症の場合には保険適応になっていますが、現時点では、混合性結合組織病は適応外です。
ある程度以上進行してしまったために、すでに酸素不足の状態になっている場合には、在宅酸素療法で酸素を補います。最近の機器は小型化されて軽くなり、外出にも便利になっています。
4-3.「食道病変:逆流性食道炎」
概要
我が国からの報告Jpn J Rheumatol 1997;7:279によると、患者さんの78%で、食道の筋肉の委縮、つまり食道の壁の筋肉の一部が線維線分で置き換わっているという変化を認めています。
混合性結合組織病では、消化管の始まりである食道にも、線維化が起こっているわけです。しかし、より線維化の強い病態である強皮症では、食道の他に、さらに下の小腸や大腸にも線維化が起こります。混合性結合組織病でも、小腸や大腸の線維化は起こらないわけではありませんが、その頻度はより少なく、程度もより軽いものになります。
食道に線維化が起こると、食道の動きが悪くなり、その下に位置する胃から、胃酸が逆流するのを防げなくなってしまいます。胃は酸にも抵抗できるような構造になっていますが、食道はそのような構造にはなっていません。そのために、食道の粘膜が傷み、胸の痛みとして感じられるようになります。それだけでなく、胃酸の逆流によってむせたり、咳が出たり(とくに寝ているとき)、さらには、食道の動きが悪いので、食べたものが胸につかえたりすることもあります。
こういう病変のことを「逆流性食道炎」といいます。逆流性食道炎の診断は、基本的には内視鏡(胃カメラ)で行います。
逆流性食道炎の治療
基礎療法としては、以下のようなものがあります。
①食後すぐに横にならないようにして、重力の力も借りて逆流を防ぐ
②油の強いものは消化管の運動を抑え気味にしますので、摂取を控え気味にする
③1回の食事量を控えめにする。間食を行って、トータルのカロリーを確保する
④ゆったりとした気持ちで食事をとる
薬物治療としては、プロトンポンプインヒビターといわれる種類の制酸剤、タケキャブ(最強)・パリエット・ネキシウム・タケプロン・オメプラール、消化管の動きをうながす消化管運動賦活剤、ガスモチン・ガナトン・ナウゼリン・セレキノン・六君子湯を使います。
4-4.「発熱:混合性結合組織病の臓器病変のサインでもある」
発熱がある場合は、同時に、あるいは遅れて、以下のような症状がでることがあるので注意が必要であることは、初めのほうでもお話ししました。
①関節炎、②リンパ節腫脹、③心膜炎、④胸膜炎、⑤筋炎、⑥腎炎、⑦中枢神経(脳)病変、です。
次の項からは、これらの病変についてお話ししていきます。いずれも「炎症」がかかわる病変ですので、ステロイド剤や免疫抑制剤で治療します。また、ステロイド剤や免疫抑制剤による治療が有効である、という特徴があります。
発熱自体は、消炎鎮痛剤(ロキソニンなど)や、少量のステロイド(一般的にはプレドニゾロンで20㎎/日以下)で対応します。より強力な治療が必要になることもありますが、そのような場合は、たいていは上にあげました臓器病変を合併しているときです。
4-5.「関節炎」
混合性結合組織病の患者さんのほぼ全員が、関節炎を一度は経験します。60-70%は軽症、かつ一過性といわれます。一過性の場合は関節の変形などに至ることはないので、消炎鎮痛剤による対症療法でよいでしょう。期間を限定できれば、少量のステロイド剤でもよいのでしょう。
しかし、関節リウマチのように慢性の経過をたどり、関節の拘縮(十分に曲げ伸ばしできなくなること)や変形に至ることもあります。症状が継続する、あるいは拘縮が起こるリスクがあるようであれば、関節リウマチの関節炎に準じた治療を行います。当ホームページの関節リウマチ関連の記事をご参照ください。
4-6.「心膜炎・胸膜炎」
心臓を覆っている心膜や、肺を覆っている胸膜に炎症が起きて、水が溜まってくるのが、心膜炎、胸膜炎です。胸の痛みや息苦しさといった症状であらわれます。
胸部単純レントゲンや、CT、超音波エコー検査、さらには溜まっている心嚢水や胸水をとってきて検査するなどの方法で診断されます。心嚢水や胸水の検査をするのは、感染症でも心膜炎や胸膜炎を起こすことがあるからです。
混合性結合組織病の心膜炎・胸膜炎に対しては、中等量以上のステロイド剤、もしくは免疫抑制剤の併用で治療を行いますが、感染症であった場合にこのような治療を行えば、かえって悪化してしまうことになります。
4-7.「筋炎」
先ほどから紹介しています、我が国からの報告によると、混合性結合組織病の患者さんの54%で、筋肉の委縮(線維化)が認められ、25%で筋肉への細胞の浸潤(炎症)が認められるとなっています。
混合性結合組織病の筋炎の治療は、多発性筋炎や皮膚筋炎の治療に準じます(当ホームページの炎症性筋疾患をご参照ください)。簡単に申し上げると、中等量以上のステロイド剤と、免疫抑制剤(アザニン、メトトレキセート、ネオーラル、エンドキサンなど)を使います。
幸いなことに、混合性結合組織病の場合は、治療によって速やかに改善することが多く、日常生活に支障をきたすような筋肉の委縮は、少ないことが知られています。
4-8.「腎炎」
先ほどからの我が国からの報告では、混合性結合組織病患者さんの29%に、糸球体腎炎が認められています。この中には、軽症で治療不要のものも含まれています。
腎炎の病態も治療も、全身性エリテマトーデスの腎炎に準じたものとなっています。筋炎の場合と同様に、全身性エリテマトーデスに比べると、混合性結合組織病の腎炎は治療によって改善しやすいことが知られています。
4-9.「神経病変:無菌性髄膜炎」
混合性結合組織病の神経病変として特徴的なものが、「無菌性髄膜炎」です。
症状は、強い頭痛と発熱です。通常は、意識レベルが低下するまでのことはありません。
診断は、脳脊髄液を採取して検査を行うことと、頭部MRIの検査で他の脳の病気の可能性を除外することで行います。
無菌性髄膜炎は、消炎鎮痛剤によって誘発されることもあります。この場合は、消炎鎮痛剤を中止するだけで改善することもあります。しかし、一般的には、治療のためにステロイド剤を使う必要があります。ステロイド剤の使用量は、やはり中等量以上で、たとえば体重50㎏の人であれば、プレドニゾロン20-50㎎/日を使います。
消炎鎮痛剤で無菌性髄膜炎を起こすリスクがあるとはいっても、頻度は少ないものです。ですから、状況によって、混合性結合組織病の患者さんに消炎鎮痛剤を使うことはありえます。
4-10.「神経病変:三叉神経痛」
混合性結合組織病の神経病変として、もう一つ特徴的なものとして、「三叉神経痛」があります。場合によっては、この三叉神経痛が初発症状(一番初めに出る症状)になることもあります。
三叉神経は、名前の通りに3つの枝に分かれています。第1枝はひたいのほうに、第2枝は頬に、第3枝は顎のほうに分布しています。これらの枝の領域のいくつかで、痛みやしびれなどの感覚異常が起こります。両側に起こることもあります。症状は長く続くしつこいもので、患者さんを悩ませるものとなります。
前項の「無菌性髄膜炎」までは、ステロイド剤や免疫抑制剤による治療が有効な病変が続きましたが、この「三叉神経痛」については事情が異なります。発症して間もない時期であれば、ステロイド剤が有効なこともありますが、その効果は限定的であることが多く、治療に苦労することが多い病変です。結局。根本的な改善というよりは、症状を軽減させるという選択肢をとることになることが多いと思われます。その場合は、テグレトール、リリカ、タリージェ、サインバルタなどの薬剤が使われます。
4-11.「血球減少」
血球には、白血球と血小板と赤血球があります。混合性結合組織病の血球減少は、主に白血球の減少で、血小板や赤血球の減少は、あまりありません。
血球減少は、混合性結合組織病の診断基準の「混合所見」にも記載されている病変ですが、治療が必要になることは、あまりありません。比較的多い白血球減少でも、治療対象となる、白血球数(WBC)1000/μl以下、もしくは好中球数1000/μl以下、リンパ球数500/μl以下になることはめったにありません。
治療が必要になった場合でも、ステロイド中等量以下で(プレドニゾロンで10-15㎎/日)有効である場合がほとんどです。
4-12.「混合性結合組織病によくある合併症:唾液腺炎(シェーグレン症候群)」
混合性結合組織病では、他の膠原病である、シェーグレン症候群を合併しやすいということが知られています。シェーグレン症候群は、唾液腺の慢性の炎症のために、唾液が出にくくなる(口腔乾燥)ことと、涙腺の慢性炎症のために、涙が出にくくなる(眼球乾燥)が主な症状となる、膠原病です。
混合性結合組織病の場合は、理由は不明ですが、このうちの唾液腺の病変が出やすいということが報告されています。先ほどからの我が国からの報告によれば、混合性結合組織病の患者さんの81%に、唾液腺に細胞が浸潤している(炎症)のが認められ、57%に、唾液腺の委縮(線維化)や破壊像(炎症)が認められています。混合性結合組織病の患者さんの25%に、シェーグレン症候群を合併しているといわれます。口の乾燥症状、唾液の出にくさがある場合には、シェーグレン症候群を疑って、検査をする必要があります。とくに血液検査で、抗SS-A抗体や抗セントロメア抗体が陽性である場合は、シェーグレン症候群の可能性が高くなります。
唾液腺の炎症は気づかれにくいものです。ですから、口の中が乾きやすいことなどから、唾液の分泌が悪いことにご本人が気づかれることには、もう炎症のピークは過ぎてしまっており、ステロイド剤や免疫抑制剤が有効である時期も過ぎてしまっています。治療としては、対症療法が主体となり、唾液の分泌を促す、サリグレンやサラジェンという薬を使います。